ayanologはてな館

主に東京の東側で暮らしている私の日々を、ごはんやおやつの話を中心につづります。ayanoのblogなのでayanolog。夏の間はかき氷専門ブログ「トーキョーウジキントキ」もやってます。2013年10月に、はてなDiaryからHatena Blogへ引っ越してきました。

大竹伸朗 全景 1955-2006

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10月下旬、大竹伸朗の大回顧展「全景」を見に、木場の東京都現代美術館に行ってきました。彼が生まれてから現在までの、全作品を収録・展示するというものすごい企画です。3階から地下2階まで、企画展示室をすべて使って展示するかなり規模の大きな企画展なんですが、恐ろしいことにそれだけのスペースを使っても作品を収めきれず、部屋によっては上下5段にも作品を展示したり、ポスターなどの印刷物は別室に持っていったりして展示しています。展示している作品数、なんと2000点余り!!

大竹伸朗……お恥ずかしながら「名前は聞いたことあるなー」くらいだったんですが、現在は宇和島に巨大なアトリエを構えて制作を続けている、現役バリバリのアーティストです。私は美術館内で、ばったりご本人をお見かけしましたよ。55年生まれとのことなので、今51歳。そんなに大柄な人ではないのですが、体からエネルギッシュな“気”があふれ出していました。

絵本の絵を描いたり、モロッコの旅行記(絵と文と両方)を出版したり、あと、EGO-WRAPPIN'のジャケットをデザインしたりもしてるんですね。2000点のうち数点「あ!見たことある!」っていうのがありました(^^;;;

以下、結構長めの感想です。

●3階
展示は、3階から始まります。ここでは、彼が21歳のときから私的に作っているスクラップブック(これだけでもものすごい量。総ページ数1万ページ以上、総重量200キロ以上!)が全部展示されているほか、30歳くらいまでの作品がすべて展示されています。小学生のときの作文あり、版画あり、高校時代の自画像あり、大学時代に北海道で写した写真&スケッチあり、と、大竹伸朗の若かりし時代を追体験できる仕組み。

おっ、と思ったのが、小学校4年生のときの版画。猫の絵なんですけど、10歳かそこらの子がこれを作ったのかと思ったら思わず唸ってしまいましたよ。やっぱり芸術家は子供のころから非凡なのだなあ。

そして、高校時代に描いた自画像(油絵)がたくさんあるんですが、絵の中の大竹伸朗はまっすぐにこちらを見据えていて、なんだか見つめられているようなその視線に思わずドキドキ。うぅっ、かっこよすぎる。段ボールに油絵の具を載せて描いたりしてるあたりも、リアルでいいなあ。

それにしても、30歳までの作品しかないはずの3階で、すでに息切れ気味ですよ。だってものすごい作品数なんだもん。

でも……と、思わず自分を振り返ってしまったり。この展示、たしかにものすごい量なんだけど、でも私だって今までに書いたテキストと写真と絵をすべて合わせたら、これに匹敵するくらいの量があるはず(もちろんそんなことはするわけがないのだけれど)。人間が、自分の中から吐き出した30年分のいろんなものを合わせたら、ものすごいボリュームになるんだなあ…と変な感心をしてしまいました。

若いころから精力的にいろいろなものを作ったり書いたりしてきた人であれば、「作品」として残るもの、全集に収められるもののほかにも実にいろいろなものを生み出しているはずだ、ということに気付いたのは有りがたかったな。画家でも作家でもいいんですけど、よく「xxの作風」とか「ooの思想」とかって簡単にカテゴライズするじゃないですか。でも、ほんとはそんな簡単・きれいにまとまるものじゃないはず。もっと混沌としているはず。今回のように、「全作品収録!」というのは難しいことだけれど、でも現代アーティストならできるんだ、一人の作家を知るって、本当はこういうことなのかもしれない……と思いましたよ。

●2階&1階
2階と1階は、旅の途中で描いたスケッチが中心。モロッコを描いた「カスバの男」の、シンプルなラインと絶妙な色遣いがすごく好き!細かく描き込んだ、またはいろいろ貼り込んだ“濃い”作品が多いだけに、シンプルな線で描かれたドローイングを見るとハッとさせられます。

そしてもう一つ印象的だったのが、イスタンブルを描いたスケッチたち。今から12年前の夏に彼はイスタンブルへ滞在して、数々の風景画を描いているのですが、これってちょうど私がトルコに居たのと同じころ。彼が見ていた景色は私が見ていた景色であり、彼の絵が私の記憶をどんどん掘り起こしていきます。しかも私はその後トルコへ行っておらず、記憶がそこで止まっているので、懐かしさもなおさら。Eminonuの港を始めとする、イスタンブルのさまざまな風景画を見ていると、いろんな思い出や風景が頭の中にどんどん浮かんできて、たまらない気持ちになりました。

●地下2階&吹き抜け
地下2階、吹き抜けの空間では「女神の自由」「北の空に浮かぶカタチ」「ダブ平&ニューシャネル」といった大型展示がお出迎え。女神の自由は、新潟のパチンコやさんの看板だった自由の女神さんを、なぜか大竹氏が引き受けてしまったもの。宇和島のアトリエのすみに寝ころび、汚くなってしまっていたそうですが、今回の「全景」に合わせて修理・塗り直しをしたのだとか。ニューヨークの自由の女神に比べるとずいぶんと変なプロポーションなのですが、なんとも味があって見飽きません。

北の空に浮かぶカタチは、大竹伸朗の絵を引き延ばし、10メートル×17メートル、重さ1トンの巨大緞帳として制作したもの。川島織物という会社が制作しています。印刷のアミ点が織物で再現されているのが凄い。札幌で劇場用の緞帳として使われているものだそうです。これは迫力が違うので、実物を是非見てみて欲しいなあ。

地下の展示で最も印象に残ったのは、「日本景」シリーズ。1995年から2000年にかけて「日本を描く」連載として、各地を旅して描いた絵です。普通の絵のほか「ぬりどき日本列島」と題した塗り絵もあり。

この日本景、わびさびでもなけりゃ美でも伝統でもないわけですが、だけどリアルに「ニッポン」なのですよ。フリップ式の携帯電話や、東京テレメッセージのポケベルなどなど、連載が行われていた“20世紀最後のニッポン”のエッセンスがギュギュッと詰まっていて、「ああ、あったあった!」の連続。寂れた水族館とか、電話ボックスに貼られたピンクチラシとか、なんだかものすごくいろんな風景を思い出してしまいました。

朝早めに行って、半日たっぷりかけて見たにもかかわらず、おなかいっぱいでもうヨレヨレ。企画展全体の印象を一言で表すなら「密度と濃度」ってところでしょうか。このほかにもいろいろあったんですけど、なにしろすごいボリュームなので、とても書ききれません(苦笑)。企画展示室の外にもいろいろあって、「印刷物部屋」だけはかろうじて見られたけれど、「美術図書室」とか「映像コーナー」はもうギブアップしちゃいました。この二つだけでも再訪しないとなあ……。

ちなみにこの「全景」、10月14日から始まった企画展で、12月24日までやってます。詳しくはこちら。それほど混んでいない(建物も広いし……)ので、じっくり楽しめると思いますよ。一部雑誌もこれに合わせて大竹伸朗を特集中。エンタクシーの秋号とか、IDEA 11月号大竹伸朗を特集しています。

そうそう、帰り際には現代美術館の屋上を見上げることをお忘れ無く。宇和島駅解体のときにゆずりうけた駅のネオンサインが、木場の町を見下ろしています。

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