ayanologはてな館

主に東京の東側で暮らしている私の日々を、ごはんやおやつの話を中心につづります。ayanoのblogなのでayanolog。夏の間はかき氷専門ブログ「トーキョーウジキントキ」もやってます。2013年10月に、はてなDiaryからHatena Blogへ引っ越してきました。

「そして、私たちは愛に帰る」

2009年、私が今年最初に観た映画がこれ。そして見終わった瞬間「これが2009年ベスト映画になっちゃうかも」と思ったのもこれ。

「そして、私たちは愛に帰る」。そもそもこのタイトルを聞いたとき、私はまったくピンとこなかったのです。それが見にいこうと思うに至ったのは、白央篤司さんがむちゃくちゃプッシュしていたのを読んだから。最初タイトルを見て「いわゆる一つのラブストーリー?」と思って食指が動かなかったのだけど、映画を観たらまるで違った。完全に裏切られて放心した。どうしてあのタイトルなんだろう、どうしてあのポスターなんだろう……と思った次第。ちなみに原題は「THE EDGE OF HEAVEN」。直訳したタイトルのほうが、まだ誤解しなかったかもしれないのに*1。ちなみに上に掲載しているのは日本語版ではなく、英語版(ドイツ語版?)のポスター画像です。
白央さんのオススメだ、ということ以外何の事前情報もなく見にいったのだけれど、映画が始まっていきなりトルコ語が聞こえてきて驚きました。あれ?トルコの話なの?黒海沿岸なの?あれあれあれ?

そう、これはドイツに暮らすトルコ系移民とドイツ人の物語なのでした。物語も、2000キロ離れたトルコとドイツの間を往復しながら進んでいきます。

ちょっとだけ補足説明をすると、1960年代、旧西ドイツは不足する労働力を補うために、トルコ系移民を大量に受け入れたのです。で、その頃やってきたトルコ人はドイツに定住し、そこで子どもを作り育てました。この映画を撮ったファティ・アキン監督も、実はドイツに暮らすトルコ系移民。彼は今35歳で、これくらいの歳の「ドイツ生まれのトルコ人」が、今ドイツにはたくさんいるんですよね。

前の前のワールドカップで人気になった「イルハン・マンスズ」を憶えているでしょうか。彼なんかもまさにこの立場。トルコ人の両親がドイツにやってきて生まれた子供なので、生まれも育ちもドイツ。親とはトルコ語を話すのでトルコ語もできるけれど、カラダに染みこんだ文化はドイツ文化なんですよね。かくして、「見た目も話す言葉も完璧にトルコ人。でもトルコに行くと流行のポップスすら知らないトルコ人」ができあがる、という次第。イルハンファティ・アキンのような。

映画の話に戻ると、愛は愛でも男女の愛と言うよりはこれ、親子の愛の物語です。さらにいうなら、愛というより「赦し」と「すれ違い」かもしれない。以前「君の名は」がリメイクされたときに、「携帯電話のある現代に、すれ違いの物語なんて成立しないんだよ」と揶揄されていたのを憶えているのですが、この「そして、私たちは愛に帰る」では盛大にすれちがいます。携帯があったって、すれちがいの物語は成立するんですねえ。映画を見ていて「ああ、もう!」と何度思ったことか……。

当初、物語は唐突とも思えるくらい淡々とスピーディに進んでいきます。淡々としすぎて、観客は置いて行かれてる気がしてしまうくらい。途中ドイツ人の母(ハンナ・シグラって昔の美人女優だったのですね……)が登場するあたりから、ぐいぐい引き込まれ、ラストに近付くにつれ、構成の妙に溜め息をつかされてしまいました。そう、この映画、構成と脚本がすごくいいんですよ。それだけにストーリーを事前に説明したくない……。

この映画、すごく勧めたいのだけれど、詳しく書けば書くほど読んだ人がひいてしまうのではないか、観る気を失せさせてしまうのではないかと不安になってしまいます。

万人受けする映画ではないかもしれない。でも、私には本当に刺さりました。映画が終わった後にパンフレットを買ったのなんて、何年ぶりだろう(笑)

余談ですがそういえばこの映画、翻訳も非常によかった!私の場合ドイツ語は分からないけど、トルコ語の訳が非常になめらかで、感心しました。ドイツ語経由で訳してるからなのかなあ。トルコ映画も何本かは観たことがありますが、いつも訳が気になって物語に入り込めないことが多いんですよね……。ああ、もう一回みたい。

そして、私たちは愛に帰る→

*1:邦題「そして、私たちは愛に帰る」も、本編を最後まで見終わると腑に落ちるんですけどね。