ayanologはてな館

主に東京の東側で暮らしている私の日々を、ごはんやおやつの話を中心につづります。ayanoのblogなのでayanolog。夏の間はかき氷専門ブログ「トーキョーウジキントキ」もやってます。2013年10月に、はてなDiaryからHatena Blogへ引っ越してきました。

横浜美術館開館15周年記念展「失楽園 風景表現の近代 1870-1945」

 見に行ってからだいぶ経っちゃったんですが、これも忘れないように書いておこう。タイトルにもあるように、横浜みなとみらいにある横浜美術館の15周年記念展です。

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 日本、フランス、アメリカを中心に、19世紀後半から20世紀前半の「風景」を時代順にたどっていきます。絵画だけかと思いきや、本の挿絵、写真なども多用され、その時代の「空気」が伝わってくるのがすばらしい。

 行くまでは絵画展なのかなと思っていたのですが、絵よりもむしろ、写真や本に印刷された絵がいいです。非常に印象的だったのが、20世紀初頭のアメリカの写真。ニューヨークの写真もあるし、田舎の写真もあるのですが、物言わぬ写真たちが、雄弁にこちらへ語りかけてきます。

 フランスのイラスト本「イリュストラシオン」は、細部まで精緻に描き込まれたイラストがたくさん載っていて、とても有意義な資料になっています。学生時代、ずいぶん図書館で眺めた本ですが、私が見ていたのは19世紀半ばまでだったので、今回展示されていたイラストは初めて見るものがたくさんありました。そういえば学生のころ、これを読みたいがためにフランス語を勉強したんですよね…。

 19世紀末に、イスタンブルやセイロン島を訪れたフランス人の視線はまだ「未知なる土地への憧憬」です。しかしその視線は、帝国主義と植民地支配の台頭とともに失われていきます。たとえ同じ風景を切り取っても、見る人の意識によって、その目に映る風景は変わるんだということを思い知らされます。

 20世紀前半、日本の展示には朝鮮半島や台湾の絵や写真が加わります。絵の世界でも「帝国主義」はあるということが分かると思います。歴史で習った帝国主義とはこういうことだったのかと思い知らされる、非常にいい展示だと思いました。

 あともう一つ。私は土門拳の写真が非常に好きなのですが、こうして歴史の流れのなかで展示されると、今まで写真集や展覧会で見ていた同じ写真が、違う意味を持って迫ってくるのが新鮮でした。木村伊兵衛の写真とともに、展示後半の柱になっているのですが、やっぱり私は土門の写真が好き、と改めて再認識しました。彼の写真は時間と執念の写真。デジカメではあれは絶対に撮れないと思うんですよね…。

 20世紀半ば、日本は戦争に敗れます。なぜ「失楽園」なのか、最後の部屋の展示がまさにその答えになっています。写真の描き出す風景の残酷さに、言葉を失ってしまいました。

 記念展にふさわしく、企画した人のセンスと力量を感じさせる、非常にいい内容でした。写真が好きな人には是非見て欲しいなあ。なお、この企画展は12月12日までで、もうすぐ終わってしまいます。見たい方は急いで行きましょう!

追記:非常に惹かれたのが、アンリ・リヴィエールの「エッフェル塔三十六景」。しかし展示されているのは、36枚中9枚だけなのです…コンプリートしているのを見てみたい!普段はどこにある絵なんだろう?