「あなたの漫画のセリフを使わせてください、3万で」と連絡が来た話について考えてみた
先日、ネットでこんな話が話題になっていました。
詳しくはリンク先のtogetterを見て欲しいのですが、ことり野デス子先生というマンガ家さんが描いている『漫画家と異星人』というコミックエッセイの中にでてくる、数学者のキャラクター(おそらくことり野デス子さんの夫)のセリフを、ある商業誌に連載しているマンガで使わせてもらえないか、というメールが、編集者から来たらしい。
『担当している漫画家がセリフのリアリティに悩んでます。
あなたの漫画に気に入ったセリフがあるので、3万円で使わせてもらえませんか?取材協力として名前は入れます』
この方は「私のマンガは素材じゃないです!」と激怒して、編集者のメールをほぼほぼ晒してるんですが、ふとこれを見て「私がこの編集者だったらどうするだろう?」と思ったのです。
一番無難なのは、ことり野先生の名前を引用元として明示して、セリフをそのまま引用するパターン。この場合、金銭は発生しない。ただ、マンガとしてはかなり不自然になってしまう恐れがある。事前に相談してお金を払うのは、むしろ礼儀正しい良い対応な気がするくらい。この方はもしかすると「私のマンガをこんなに安く買いたたきやがって」ということに怒っているのであって、3万円じゃなく300万円だったら怒らなかったんだろうか……?
以下、思ったところをまとめてみました。
①そもそも論として「他のマンガに出てきたセリフを、自分のマンガで自分のキャラにしゃべらせたい」というのがあまり聞かないケースですが、自分が詳しくない世界の話を書こうとすると、そういうこともあるのかもしれない。今回は数学者の発言ということで、「自分で思いつくのよりも遙かに素敵なセリフを他の人のマンガで見つけてしまった」という展開も、まあわからないでもない。
②今回は「担当してる作家さんにそう相談されたとして、もし自分がこの編集者だったらどうする?」って話を考えています。
「そんなこと言わないで自分でセリフ考えなさいよ」と作家にアドバイスする人もいるかもしれない。が、そう相談されたら「じゃあ、相手に交渉してみましょうか」と私も言うと思う。
③この編集者さんも困ったと思う。こういうケースそうそうないだろうし……
「引用ならOK」と最初は思ったけど、でもおそらく作家さんは自分のキャラにセリフとしてこれをしゃべらせたいんだろうから、
「私の好きな、ことり野デス子先生作のマンガにこういうセリフがあるのです。私が一番好きな数字は『2』です……云々……」と引用にするのも厳しかろう。おそらくこの編集者さんは「マンガの中で、歌の歌詞を使うときにJASRACに許可取るみたいなものかな」と類似のケースを考えたのではないか
(→そこから「3万円」という額を出してきたのではないかと推察)
④編集者からのオファー(三万円とか、取材協力でクレジット入れるとか)に対して、
・OKです
・NGです
・OKですが、条件変えてください
などと交渉するのなら分かる。考え方は人それぞれだから、OKでもNGでもいいと思う。
でも、「他人のマンガは素材ではありません」「誰にも言わず無かったことにするの心が死ぬな…と思ったので。漫画を読むのも描くのも大好きだから信じられない打診だし、勝手に値段つけられたのも侮辱です」といってTwitterでさらすのはどうなん……?
⑤あとから、この方はテニプリの二次創作同人やってた方と知って(弱虫ペダルのデフォルメイラストを描いて缶バッジを売ってるツイートも見た)さらに訳分からなくなってます。それは他人のマンガを素材にしていることにはならないの???
ということで、(マンガじゃないけど)編集者的には気になるトピックだったのでありました。おしまい。
追記:「むしろ二次創作をする人だったからこそ、お金と交換に他人のオリジナル作品の一部に利用されるのは心外だったのでは?」という指摘をいただいて、その観点はなかったな、と思いました。
原作を明示&リスペクトして、その下位としてやるのが二次創作だから、原作の一部だけを切り出すことはしない。それに対して今回の話は、マンガのセリフだけを素材として切り出して、他の人のオリジナル作品を作るからそこだけ売って、と言われたことが許せなかったのではないかと。その観点はなかったので、なるほどな……と。
追追記:これ、よくまとまってたので自分用メモとして貼っておこう