ayanologはてな館

主に東京の東側で暮らしている私の日々を、ごはんやおやつの話を中心につづります。ayanoのblogなのでayanolog。夏の間はかき氷専門ブログ「トーキョーウジキントキ」もやってます。2013年10月に、はてなDiaryからHatena Blogへ引っ越してきました。

「アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生」

ちょっと前の話になりますが、zoomaniaさんにお勧めされていた映画「アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生」を見てきました。アニー・リーボヴィッツジョン・レノンオノ・ヨーコの写真(ジョンが暗殺される数時間前に撮られたモノ!)や、デミ・ムーアの臨月写真などで有名なアメリカの女性写真家。彼女の名前を知らなくても、写真は観たことがある人が多いんじゃないかな。

彼女の被写体になったことがある“超”が付くほどの有名人が続々登場して話をする、そのラインアップだけでも一見の価値有り。写真(家)を主題にした映画は、“大画面スライドショー+BGM”や“淡々としたドキュメンタリー”になりがちで、「写真はいいんだけど、暗いところで見ていると眠くなってくるんだよね」的な映画が多いのですが、この映画は眠くならない、それだけでもよくできている(笑)。

アニーの妹である、バーバラ・リーボヴィッツが監督しているのですが、彼女(たち)が子供のころのホームビデオや写真がちりばめられていたりするあたりは、さすが妹ならでは。

この映画では、彼女のキャリアを大きく3(4)段階に分けて紹介しています。

  1. 第1段階(前半):ローリング・ストーン誌の表紙を撮っていた頃
  2. 第1段階(後半):ビア・フェイトラーとの出会い
  3. 第2段階:ヴァニティ・フェア誌へ移籍
  4. 第3段階:スーザン・ソンタグとの出会い

第1段階の前半、彼女の強みは「被写体(のいる環境)に溶け込むこと」と「天性の眼」だったようです。若い女性カメラマンとしてロック界の数々の大物にかわいがられ、ローリング・ストーンズの全国ツアーに完全密着。バックステージで“素顔の彼ら”を撮った写真を発表。ローング・ストーン誌の当時の編集長やキース・リチャーズは彼女について、こう語ってます。「あのころのストーンズに付いていくなんてとんでもない。やめろといったのについて行ってしまった」「アニーはいつのまにか溶け込んでいた。空気のような存在になっていた」「アニーにはほかの人には見えない絵が見えてる。彼女はそれを写真に撮る」

ロックの世界のカメラマンとして一定の地位を確立したころ、彼女はエディトリアルデザイナーのビア・フェイトラーに出会います。ビア・フェイトラーが教えてくれたのは、「写真のコンセプトを考える」ということ。天性の眼とカンで撮っていたアニーは、観る者に被写体の特徴やコンセプトを伝える写真作りを意識するようになるんですが、この手法がかなりベタなんですよ。BLUES BROTHERSの顔を青く塗るとか。真っ赤なバラを敷き詰めた中に女優を寝そべらせる、ただしバラのトゲは全部手で切る、とかね。

30代に入った頃、ファッション誌「ヴァニティ・フェア」が復刊するということで、その表紙を撮るためにアニーはローリング・ストーン誌から移籍します。伝統あるファッション誌が復刊となれば、話題にはなるけど古くささや昔のイメージに引きずられるおそれもある。そこで、パワーがあり、人々の話題になる写真が撮れる写真家(これはものすごい才能だと思う)アニーに白羽の矢が立った、というわけです。

このころから彼女の写真は、(スナップ的ポートレートではなく)作り込まれた商業写真になっていきます。ものすごい予算をかけて、映画のようにセットを作り、その中にイメージに合わせた豪華な衣装をまとわせた俳優を立たせて、演技をさせて写真を撮る。大勢のスタッフを指揮する監督として、作り込まれた商業写真を撮るというスタイルは、カメラ1つ下げて被写体の中に一人飛び込んでいっていたローリング・ストーンズ誌時代のアニーとはまるで別人のようですが、でも個人的には「莫大な予算と、大勢の人を動かして仕事をするのって仕事の大きな醍醐味だよな」とも思う。

このプロセスで、彼女が撮るポートレートの対象も、ロック界スターだけでなくアメリカのセレブリティ全般へ広がっていきます。デミ・ムーアの臨月写真(↓)とかね。

話は少し逸れますが「どのような現場で作品が撮られるのか」が分かるのも非常に興味深い。プロが写真を撮るところを観る機会って、あまりないじゃないですか。特に“人撮り”は相手の気分をどうのせていって、どういい表情を引き出していくかが大事なのだけど、どんなふうに話しかけたり、ポーズを付けたりするのかって、師匠にでもつかないかぎりなかなか分からないので。

で、映画の終盤ではスーザン・ソンタグとの出会いと別れが描かれます。スーザン・ソンタグ、亡くなってたんですね……知りませんでした。彼女が書いた文章は読んだことあっても、写真を見たのも初めてだったし、いくつなのかも知らなかった。若き日のスーザンが知性漂う綺麗な女性だったことも初めて知りました。アニーは彼女の影響で、サラエボに行って写真を撮ったりもしたらしい。50歳を過ぎてから子どもを3人持つなど、仕事だけでなく、プライベートでもパワフルな人なのだなあと感じさせます。

この映画、いろんな意味で面白いです。趣味でも仕事でも、写真を撮る方には是非観ていただきたいなあ。ただこの映画では、彼女の写真家としてのキャリアを振り返るのが主題で、アニー・リーボヴィッツという人物像を明らかにしたり、彼女のプライベートを開陳したりということにはまったく力を注いでいないんですね。だから観る人によっては「結局アニー・リーボヴィッツっていうのはどういう人間なんだ!まったく伝わって来ないじゃないか!」と思うかもしれない。私は彼女自身のプライベートにはほとんど興味がないので充分満足したけれど。

アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生
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