三の丸尚蔵館「花鳥−愛でる心、彩る技<若冲を中心に>」@第5期
見に行ってから随分と時間が経ってしまったのですが、皇居三の丸尚蔵館で行われていた「花鳥―愛でる心、彩る技〈若冲を中心に〉展」の最終期、第5期を見てきました。
思えば今年の夏、私の中で一番盛り上がっていたのが伊藤若冲と、そこから興味を持った琳派の画家達。今まで日本画に全然興味がなかったのに、不思議なものです。それくらい、興味の入り口として若冲さんが素晴らしかったってことなんだろうなあ。だって若冲さんの絵、「日本画=掛け軸に墨で描かれたもの、わびさびな感じ」という先入観をぶっとばしてあまりあるくらいエネルギーに満ちているもの。これが江戸時代に描かれたのか!と思うと体が震えます、ホントに。
さてそんな若冲さんの「動植綵絵」全30幅を6幅ずつ展示しているこの企画。ついに最後の6枚となったのですが、一番気に入ったのが「紅葉小禽図」。何とも不思議な絵なんですよ。
図版で見たときはそれほど印象がなかったんですが、実物は見飽きない絵。最後の最後にこの絵を持ってきた学芸員さんのセンスには脱帽です。一見、ただ赤いばっかりかと思ったもみじの葉は、実はかなりさまざまな色に塗り分けられていて、かなり複雑かつ美しい。
動植綵絵の他の絵に比べると構図的にはシンプル……と言いたいのだけれど、真ん中のくるっと輪っかになった枝。ありえない形で、見ている者をものすごく落ち着かない気持ちにさせるのです。この“そこはかとなくヘン”な感じがたまらなくて、若冲さんの絵は何度も見たくなるんだよなあ……。
ちなみにこの小鳥さんは、平成10年に国際文通週間の記念切手になってるんですよね。動植綵絵から3種類、鳥の部分をアップで切り出して切手に使っています。「紅葉小禽図」が90円、「雪中鴛鴦図」が110円、「芍薬郡蝶図」が130円。雪中鴛鴦図は、若冲さんの絵で最初に衝撃を受けた絵なので、これが選ばれているっていうのが個人的には妙に嬉しい気持ち。
さて、今回の目玉は多分、お魚シリーズ。「群魚図<蛸>」「群魚図<鯛>」が出ています。親蛸の足にくるりんと子ダコがからみついてくっついているのがなんともキュート。若冲さんの絵にしては素直に描いている印象ですが、それでもどこかで変な部分(よく言えば遊び心)を忘れないのね、なんて思ってしまいました。ウロコなどの描きこみぶりはさすが若冲、という感じなのだけれど、やはり鶏を始めとする馴染みの動物に比べると、若冲さんにとってはあまり魚って馴染みがなかったんだろうなあと思ってしまいます。構図的にも、かなり素直(=ひねってない)だし。
残り3点は「芙蓉双鶏図」「老松孔雀図」「薔薇小禽図」。芙蓉双鶏図で「やっぱり若冲さんの描く鶏はひと味違う。実物よりもリアルだ」と思い、老松孔雀図で「ああ、鳥の羽の白さがすばらしい。どんな絵の具を使ったら、そしてどんな技術を使ったらこんな色が出せるんだろう」とつぶやきました。
薔薇小禽図は“綺麗”と“グロい”のきわどいところを行く作品。たくさんの薔薇が咲いていて、そこに小鳥がいる絵なのだけれど、見ているうちにだんだん、薔薇が気持ち悪く見えてくるのです。花の咲く方向も、みっちりとした咲き具合もなんだかヘン。しかも花がだんだん、生き物の眼に見えてくる……うう、気持ち悪いよう。
一回に6枚ずつ、5期に渡って展示された動植綵絵。かなり長い期間若冲に思いを馳せることになりました。
そのおかげで今年の夏は何冊か伊藤若冲関連本を読んだんですが、私が読んだ中でどれか1冊オススメするとしたらコレかな。若いころから順に作品を紹介し、彼の生涯や人間関係についても絵に絡めて解説してくれるわかりやすーい本です。彼の描いた絵をバランスよく紹介していますが、特に動植綵絵にページを割いて、大きく載せてくれているのもうれしい!若冲という名前を初めて聞いた人でも、すいすいと読めるのではないでしょうか。
書き忘れてしまいましたが、第5期で展示されていた若冲以外の絵で、もっとも目立っていたのが円山応挙の孔雀の絵。ホントに大きな、堂々たる大作です。雄雌一対の孔雀の絵なんですが、これを再構成し、孔雀1羽の絵として描いたのが、上野のプライスコレクションに出ていた長沢芦雪の「牡丹孔雀図屏風」。あの絵を思い出しながら応挙の孔雀を眺めていました。ああー、これが出ることは分かってたんだから、上野で買った図版を持ってくればよかったよ…とちょっと後悔。
そんなわけで、伊藤若冲「動植綵絵」を6幅ずつ5期に分けて堪能しましょう、という若冲マラソンもこれで最終回。ほんっとに良い企画でした。上にも書いたけれど、この企画のおかげで日本画に出会えたといっても過言ではないもの。
来年は、動植綵絵30幅が京都の相国寺へ里帰りし(動植綵絵は、相国寺が皇室に献上したものなのです)、釈迦三尊像と一緒に飾られるという見逃せないイベントがあります。行くぞ、京都へ♪
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