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主に東京の東側で暮らしている私の日々を、ごはんやおやつの話を中心につづります。ayanoのblogなのでayanolog。夏の間はかき氷専門ブログ「トーキョーウジキントキ」もやってます。2013年10月に、はてなDiaryからHatena Blogへ引っ越してきました。

「セバスチャン・サルガド アフリカ」@東京都写真美術館(〜12/13まで!)

blogに書かなきゃいけない&書きたいネタはいっぱいあるんだけど、もうすぐ会期が終わっちゃうからせめてこれだけは急いで……というネタを。

先日、恵比寿の東京都写真美術館へ「セバスチャン・サルガド アフリカ」展を見に行ってきました。これ、オススメです。心からオススメ、是非見てほしい。

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全編モノクロの写真たち。大判の写真がずらりと並びます。高感度フィルムなのか、35ミリを引き延ばしているのか、よく見ると結構粒々と粗いプリントなんだけど、なんというかもうそんなの超越しちゃってる感じ。なにしろ圧倒的な写真たち。

セバスチャン・サルガドは、1970年代から今に至るまで、ずっとアフリカを追ってきた写真家。おそらく「報道写真家」というカテゴリに入るんだと思いますが、驚くのはその写真がなにしろ美しいこと。人物を撮った写真も、動物を撮った写真も、自然を撮った写真も「凄い」としか感想が出てこないのです。

普通、カメラマンにはやっぱり、タイプがあるんですよ。作り込んだ完璧な構図を得意とする人、一瞬を切り取ってそれによって真実を見せる人。でもこの人はそんなタイプ分けを越えている。余裕のない状況で撮ったであろう写真なのに、光と影が完璧に計算され尽くした構図になっているものが多い。逃げる難民とか、時には遺体とか、撮っている対象は間違いなく「ルポルタージュ写真」なのに、芸術的な美しさがあるという希有な作品たちにひたすら圧倒されました。

タイプ分けといえばもう一つ。普通、人を撮るのが得意な人は風景はあまり得意じゃないし、風景写真を得意とする人は、ポートレートのようなものはあまり好んで撮らないことが多いですよね。でもサルガドという人は違う。人を撮っても自然を撮っても動物を撮っても、なにしろ上手いし迷いがない。そして対象を知り尽くしてる、理解しているという印象を受けるのです。これってほんとにすごいこと。人物写真も動物写真も自然の写真も、「サルガドという人がカメラで切り取ったモノクロの写真」という共通項だけで、違和感なく並ぶのです。さらにいうなら新しい作品も古い作品も、今の作品に見える。時代を混ぜて並んでいてもまったく違和感がないのもすごい。

すごい写真だらけだったんですが、中でも印象に残っている写真をいくつか。「ドゥエンザ・キャンプで双子の赤ん坊に乳を飲ませる難民」というのがありました。サルガドは乳を飲ませる若い母親の写真をたくさん撮っているのだけれど、中でも凄かったのがこれ。双子の赤ん坊が両方の乳に吸い付いているのですが、乳房の部分がとても肌に見えない。やせすぎていて、肌に縮緬じわが寄り、象の肌(しかもたるんでいる)みたいになっているのです。あれが乳房だと理解するまでに一瞬時間がかかった。そして吸い付いている双子の赤ん坊もまた、やせ細っていて顔や胸の骨がくっきり見えており、変なところがとがっていたりして……人間はこんなになるんだ、それでも生きているし、子どもは乳を吸うし、そもそも出産ができるんだ、となんだか見当違いな思いが頭のなかをグルグルする写真でした。

あとルワンダの茶園で撮った写真が何枚かあるのですが、その中の1枚、茶摘みをする手がアップになっている写真も実に印象的でした。ちょっと話がそれますが、私が土門拳を好きになったきっかけが、ある年老いた男の手をアップで撮った写真だったんですよね。あの写真が頭の中でパーンと現れて結びつきました……ルワンダといえば、長く民族紛争が続き、ことあるたびに大虐殺が起き、隣国と難民が行き来すると難民キャンプではコレラが大流行して何万人もの死者が出て……という、本当に“極限”の国です。そういう極限の国でも、茶園はあって、お茶を栽培してるんだ、ということ、茶摘みという日本人にもなじみのある光景がアフリカ・ルワンダとつながる驚き……うまくいえませんが、ザラザラの肌、荒れた指先のゴツゴツした手が茶の葉を摘んでいる写真を見て、いろんな気持ちがぐるぐるした……とだけ書いておきます。

今年写美で見た中では、野町和嘉「聖地巡礼」が圧倒的に一番印象に残っているのですが、サルガドはその上を行くかも。私の稚拙な表現ではこの写真群のすごさが伝わらないのが本当に残念ですが、なにしろこれは、写真が好きな人にも興味ない人にも見て欲しいと思いました。恵比寿の東京都写真美術館にて、12月13日まで。

「セバスチャン・サルガド アフリカ」東京都写真美術館

追記:書き忘れた……「木村伊兵衛とアンリ・カルティエ・ブレッソン――東洋と西洋のまなざし」もやってます。これもいい。見たことある写真がほとんどだったんだけど、最後にコンタクトシートを公開してるのが「おっ」と思いましたよ。「こうやって被写体に迫っていくんだなぁ」と思いながら見ました。