ayanologはてな館

主に東京の東側で暮らしている私の日々を、ごはんやおやつの話を中心につづります。ayanoのblogなのでayanolog。夏の間はかき氷専門ブログ「トーキョーウジキントキ」もやってます。2013年10月に、はてなDiaryからHatena Blogへ引っ越してきました。

お勧め本×3.5(前編)

ここのところロクに本を読んでいなかったのですが、最近、また電車の中で本を読むようになりました。やっぱり楽しいなあ。面白い本に出会うとうれしいし。

しかもスバラシイことに、最近は読む本読む本、当たりばかりなのです。そのなかでも、とくに面白かった…というか、お勧めのものを紹介しようと思います。

まず一冊目。
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夢枕獏 シナン (上) (下)中央公論新社

「日本で手に入る、トルコ関係の日本語と英語の本ならほとんど読んでるよ〜」と豪語していたのも今は昔(^_^;、こんな本が出ていることすら知りませんでした。教えてくださったSさん、ホントにありがとうございます。

「あの」夢枕獏が描く、トルコ史上…いや、イスラム史上最高の天才建築家、ミマール・シナンの物語。

舞台はオスマン帝国の都イスタンブル。スレイマン大帝、イブラヒム・パシャ、悪女の誉れ(?)高いロクセラーヌ、アルヴィーゼ・グリッティ、そしてミケランジェロなどなど、超〜豪華キャスト。「スレイマン大帝とその時代」とか塩野七生「緋色のヴェネツィア〜聖マルコ殺人事件」
とかを読んだことがある人ならおなじみの人物が活躍します。
物語の終盤では、イスケンデル・チェレビーや大詩人バーキーなどの名前も登場して、トルコ史に興味がある人ならニヤニヤしちゃうはず。

イスタンブル旧市街の真ん中に今もそびえ立つ巨大建築「アヤ・ソフィア」。この史上最大のモスク(もとは教会だったわけですが)を超えるモスクを建てることはできるのか?このテーマに取り組み続けたイェニチェリ出身の建築家、ミマール・シナンの生涯を描いています。

普段あまり彼の作品は読まないんだけど、さすがだなあと実感しました。この本の面白さの大きな柱は、登場する各人物の人となりがしっかりと描かれているところ。主人公のシナンもそうだし、スレイマンとかロクセラーヌも、「なるほど、こういう人だったのかもしれない」と思わせる魅力的な人物に描かれています。彼らはいろいろとエピソードの多い人物なんだけど、今まで正直いって、断片的なエピソードが像を結ばないというか、どういう人なんだかいまいちピンとこなかったんですよね。派手なシーンはほとんどないのに、人物のキャラが立ってるから、ぐいぐい引き込まれて読み進んでしまいます。これはまさに夢枕獏の筆力のなせる技。

途中、一番グッときたのがミケランジェロがシナンに言った言葉。電車のなかで読んでたんですが、ブルブルッと体が震えました、ホントに。私も働かなくちゃ、もっともっと働かなくちゃ、と思いましたもん。スケールは全然違うけど。

シナンは代表作であるエディルネ(アドリアノープル)のセリミエジャーミーの他にもものすごい数のモスクを建てたことになっていて、「これ全部シナンが作ったってのはありえないよね、弟子が作ったのも混じってるよね」というのがとりあえず定説になってるのですが、その辺はまあさらっと流してます。

ちなみに、セリミエジャーミーはとてもきれいなモスクです。エディルネってあまり日本人観光客には人気ないみたいだけど、是非行ってみて欲しいなあ。私もまた行きたくなりましたよ、エディルネ。

正直いって、なんで夢枕獏がトルコもの?と思ったのですが、むちゃくちゃ面白かったです。時代考証もしっかりしていて、安心して読めます。スバラシイ。凄いなあと思ってたら、あとがきで「東京大学の鈴木董教授にアドバイスをいただいた」との記述が…深く納得。

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さて、全然テイストの違う二冊目。
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桐野夏生 柔らかな頬 (上) (下)文春文庫。

直木賞を取った、彼女の代表作品です。ようやく文庫化されたのでいそいそと購入。しかし買ってみたら、単行本一冊と、文庫上下巻とでは、500円くらいしか変わらないのだった…だったらとっとと単行本で買えばよかったかも。

主人公のカスミは北海道の寂しい町を捨てて、東京で生きている女性。不倫相手の石山は、カスミの逃げてきた出身地からも近い北海道の別荘を買い、そこで二人は逢い引きを重ねます。カスミも石山も、夫(妻)と子供と一緒に別荘へ来ていたのですが、二人が密会した直後、カスミの娘、有香が行方不明に。有香はどこへ消えたのか、カスミの魂はそこからさまよい始めます。
物語の後半はガンで余命いくばくもない元刑事、内海とともにカスミは有香を探してさまよいます。結末は賛否両論あるところだと思うけど、私はこれでよかったと思う。

いわゆる「面白い」「読後感の良い」小説ではないのですが、でもどんどん引き込まれて読んでしまいます。とくに前半は止まらなくて、仕事しながらも続きが気になって気になってしょうがなかったです。「喪失感」が全編に滲む後半も凄い。「こういうのをミステリーというのか」という意見もあるかもしれないけど、もはやジャンル分けはどうでもいいや、という感じ。

女の人の生々しい感情とか、イヤなところとかを描くのが、桐野夏生はホントにうまい。昔「OUT」を読んで、その救いのなさに相当衝撃を受けたのですが、これも相変わらず救いのない物語です。さすが桐野夏生。←誉めてます
読んだことがない人にも、是非読んで欲しいなあ。